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月刊化学物質管理 質問箱
 

さがみ化学物質管理 林宏

質問箱 ~月刊 化学物質管理に連載中~

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第1回(2017/01/31)
質問コーナーの開設にあたり、化学物質管理規則の現状と回答のポリシーについて

第2回(2017/01/31)
各国のGHS関連制度において、対象となる物質や濃度限度に違いがあるのはなぜか?

第3回(2017/01/31)
サプライチェーンのコミュニケーション 法的責任は誰に?

第4回(2017/01/31)
各国のGHS導入について、2015 年はGHS対応が義務化された国が多かったが、今後、対応が急がれる国はどこか?

第5回(2017/01/31)
サプライチェーン上の情報伝達における化学物質管理規則の位置づけについて教えてください。

第6回(2017/01/31)
SDSの3項に記載する組成および成分情報について、配合物の場合、他社に組成情報を知られたくないケース(配合組成自体がノウハウ)がある。
成分名を非開示にするための方法などあるか? 日本と海外でこういった対応の可否に違いがあるか?

第7回(2017/02/23)
海外化学品規制の中で“ アーティクル” という用語があるが、これはどのようなものか?
アーティクルに該当することにより対応事項が異なるか?

第8回(2017/02/23)
アーティクルか化学物質・混合物であるかの区別について、特にグレーゾーンといわれるケースとは何か?

第9回(2017/02/23)
アーティクルの法規対応の義務者は誰になるのか?

第10回(2017/03/23)
国内の「既存化学物質」の定義について:
(1)化合物を「職場の安全サイト」や「CHRIP」等で検索した場合、CAS 番号検索で「情報なし」との結果が出ても日本語名称で検索すると出てくる場合もある。このような場合、いずれかの検索でヒットがあった場合は「既存化学物質」として扱ってよいか?
(2)「既存化学物質」「名称公表済み新規化学物質」「既存物質扱いとなる化学物質」の違いについて知りたい。それぞれ位置づけとしては「既存」として同じ扱いということでよいか?
(3) 化審法における高分子化合物の取り扱いについてはどうか? 高分子と他の化学物質では判断基準は異なるか?
(4) 試験研究のみに用いる化学物質が新規化学物質である場合は、どのような取り扱いになるか?

第11回(2017/03/23)
韓国化評法における既存化学物質の取り扱いについて、化審法との差異はあるか?
差異があれば、それはどのようなものなのか。

第12回(2017/05/10)
日本では陸送の場合、例えば水生環境有害性のUN危険品であっても、UN梱包やUN絵表示は必要ないが、その危険品の梱包上に「イエローカード」または「容器イエローカード」のラベルの貼り付けは必要で、そこにはUN番号と、緊急時の応急措置方法についての指針である指針番号を記載する必要があると考えている。UN危険品の日本での陸送の場合は、上記の対応で問題ないか? イエローカードが必須で、容器イエローカードは努力義務か?

第13回(2017/05/10)
第12回 にあるように、危険品の輸送について日本では陸上輸送では国連危険物輸送勧告は適用されないが、海上輸送や航空輸送では適用されている。このような差はどうして生じているのか?

第14回(2017/05/26)
同じ製品を複数国へ販売しようと計画しています。各国ラベル規準への対応のため、各国規準に対応したラベルを作成し、そのラベルを複数添付(1 製品に4 つラベルを貼る等)しようと考えていますが、法規上問題があるでしょうか?この際、各国のGHS規準(ビルディングブロック等)の違いにより、製品としての分類が異なるラベルが貼られる可能性があります。異なるラベルが同一製品中に添付されることは、査察時や通関時に問題になるでしょうか?

第15回(2017/05/26)
化学物質が同一であっても、当局により提示されているGHS分類とラベリングが国ごとに異なる場合や、そもそも規制対象になっている化学物質が異なることも多いと思います。SDS とラベルに各国ごとに異なるGHS分類とラベリングを忠実に反映させれば、その内容は自ずから異なるものになります。このような場合はどうしても各国ごとに異なるSDS とラベルを作成せざるを得ないと考えられます。どのように対処すればよいでしょうか?

第16回(2017/06/27)
REACHの1-100トンの本登録期限が2018年5月末に迫ってきていますが、どのようなことに注意して進めていく必要がありますか?

第17回(2017/06/27)
REACH本登録後は、登録事業者(域外事業者、代理人)としてはどのような対応(維持管理)をしていく必要があるのでしょうか?

第18回(2017/06/27)
混合物SDS作成の際に混合物のGHS分類を得るための手段として、成分となる原料の危険有害性に基づいて、それぞれの危険有害性クラスに設定されたカットオフ値/ 濃度限界から分類判定することが主流と思いますが、「混合物そのものの試験データ」も利用できると聞きました。これは現実的な方法でしょうか?

第19回(2017/07/26)
EU のCLP 規則の対象には消費者向けの日用生活品(マーカー等)も含まれるか?
わが国では消費者製品はGHSの対象外と理解しているが、消費者製品へのGHS対応が義務化されている国や地域があれば教えてほしい。
また、成形品のGHS対応について、各国による違いがあれば教えてほしい。

第20回(2017/07/26)
樹脂原料やオイル等のSDSで、GHS分類の項目に「GHS分類基準に該当しない」とだけ記載されているものをよく見かけますが、その根拠は何によるものでしょうか?また、その解釈として全ての分類について「分類対象外」ととらえてよいのでしょうか?
成分について危険有害性の実験データ等はインターネット上でも見つけられないため、「分類できない」と解釈すべきでしょうか?

第21回(2017/08/23
化学品のリスク評価方法について、何種類かの方法(コントロール・バンディングやECETOC TRA など)がありますが、どの方法でも良いのでしょうか。
それぞれ一長一短があるようでどの方法が良いのか、またどの方法でできるのか迷っています。

第22回(2017/08/23)
労働安全衛生法改正による化学物質のリスクアセスメント実施の義務化では、その対象はラベル表示・SDS交付義務対象663 物質(平成29 年3 月1 日現在)とされています。その他の化学物質については「努力義務」とされていますが、社内で「努力義務」というと「やらなくてもいいんだろう」とか「できる範囲でやればいいから、予算はつけられない」などと言われ、実施にあたって合意を得るのに苦労しています。「努力義務」についてどのように理解すれば良いでしょうか。

第23回(2017/10/20)
REACH 規則において成形品中のSVHC含有率における分母の考え方は最終的にどのようになったのでしょうか?
(1)成形品の括りはどのようにとらえればよいのか?
(2)考え方の変更に伴う適用時期は?

第24回(2017/11/24)
化学物質が製造され、化学品として使用され、消費者製品となり、廃棄されるまでどのように管理されているのか、全体を大掴みに把握したいと思います。

第25回(2018/1/9)
法規の対象となる化学物質とは、どのようなものでしょうか。

第26回(2018/1/29)
化学物質管理規則の対応にあたり、すでに政府のインベントリに収載された既存化学物質と、対応しなければならない自社の化学物質の同一性はどのように判断すればよいでしょうか?

第27回(2018/3/23)
① キシレンを日本からEUへ輸出します。物質の特定番号としては化審法番号以外の情報がありませんが、EC番号を確認すべきでしょうか?
② 単一物質を輸入しようとしていますが、海外で作成されたSDSのため化審法番号や労働安全衛生法についての記載はありません。CAS番号はわかりますが、どのように調べればよいでしょうか。
③ 化学品(混合物)を海外から日本に輸入しようとしています。そのSDS にはGHSにより危険有害性を有すると判定された一部の成分のみのCAS番号が記載されています。全ての成分が化審法での既存化学物質であることは、海外供給元からの保証があります。問題なく輸入を開始できるでしょうか。

第28回(2018/3/23)
単一物質をEUから輸入しようとしていますが、工業グレードで純度は80%程度です。化審法既存化学物質であることや、労働安全衛生法での規制状況については問題ないことが確認できました。残りの20%については情報がありません。化審法や労働安全衛生法上、単一物質として取り扱ってよいでしょうか。

第29回(2018/5/30)
① 待っているお客様がいるのですぐに製造を開始したいのですが、製造販売しながら化学物質の登録審査を受けることはできるでしょうか。?
② 必要なデータを取得して登録を申請しようとしています。申請してから製造開始できるまでどのくらいの期間が必要でしょうか?
③ 少量のサンプルを研究・開発のために輸入しようとしていますが、当該化学物質を登録しなければならないのでしょうか?
④ 年間数トン程度の輸入に多額な安全性評価試験を実施することはビジネス上困難ですが、何らかの減免措置はないのでしょうか?
⑤ 化学物質を登録すれば、どのような用途にも使用できるのでしょうか?


<第1回>
質問コーナーの開設にあたり、化学物質管理規則の現状と回答のポリシーについて簡単に述べたい。

一つの転機ともいえる1992 年のリオデジャネイロの地球サミットと、それに引き続く2002 年の環境サミット開催の結果、いわゆるWSSD(持続可能な開発に関する世界首脳会議)の目標が打ち出され、その達成に向かって化学物質管理は変化してきた。
WSSD目標とは「化学物質が、人の健康と環境にもたらす著しい悪影響を最小化する方法で使用、生産されることを2020 年までに達成する」ということである。この目標達成のために様々な条約が批准・締結され、各国規則が制定されている。

関連する条約として以下の4 条約を挙げる。
1. 残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs)
2. 国際貿易の対象となる特定の有害な化学物質及び駆除剤についての事前のかつ情報に基づく同意の手続に関するロッテルダム条約
3. 有害廃棄物の越境移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約
4. 水銀に関する水俣条約
また、各国化学物質管理規則のベースには2006 年に開催された化学物質管理会議(ICCM)で化学物質管理システムとして提唱されたSAICMを共通して持つといえるだろう。
SAICMの特徴として以下の5 点を挙げる。

1. ハザード管理からリスク管理への移行
2. サプライチェーン管理を導入
3. ナノテクノロジーなどの新テクノロジーへの対処
4. 成形品の管理
5. GHS(国際的な化学品調和分類システム)


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各国の状況を見れば、中国、韓国、台湾で新たな規則が制定・施行され、日本では化審法改正時にリスク管理の仕組みを取り入れている。中でも、成形品の管理を大きく取り入れ、またリスク管理を利害関係者(主に企業)の責任としたEU REACH規則の施行は、企業の化学物質管理に大きな影響を与え、今日の潮流を形成してきたといえよう。
また、GHSは国連勧告として公表されているが、導入しやすいようビルディングブロックアプローチが採用され、実際、これまで化学物質管理のバックグラウンドを持たなかった国々でも採用・導入され、次々と施行されている。
このような同じ出発点(SIACM)を持つ化学物質管理規則については、共通の概念をとらえることで理解を容易にすることができると考える。概念図として化学物質管理規則の共通点を以下にまとめた。

一方で、SAICMから出発した化学物質管理規則も施行される国の国情・環境によってその施策は様々であり、企業等が果たすべき要求もまた様々である。出発点が同じでも、要求される規則対応は多様化してきているのが実態ではないだろうか。また、ほとんどの規則では、施行にあたり猶予期間が設けられ法順守への適切な誘導が図られているが、このような猶予期間も対応の多様さに拍車をかけている一面があるかもしれない。
以上を踏まえた上で端的にいえることは「企業対応の回答は一つではない」ということである。それだけ企業活動に選択肢が与えられているということもあるが、主体となる企業のサプライチェーン上でのポジション、対象となる物質の位置づけ、適用除外はたまた例外措置、企業に与えられた規則対応における裁量の範囲など多様な要素がからむ。
このような中、実際の企業対応では自身のポリシーを明確にした自主管理がますます重要になるといえるだろう。担当者だけではなく経営者も巻き込んだ対応が必須ともいえる。

本質問コーナーについてもこのような状況では、回答が一般的になりすぎて実務の役に立たないか、具体的にすぎれば参考にしていただける方が狭められたり、と心配は尽きないが、まず実務的な回答を第一に心がけていきたい。

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<第2回>
各国のGHS関連制度において、対象となる物質や濃度限度に違いがあるのはなぜか?

国連GHSは勧告(Recommendation)であり、各国が自国の状況や関連する既存制度に合わせて導入可能な部分を選択的に導入する、いわゆるビルディングブロック・アプローチを認めている。このため、国により様々な違いが出てきているのが現状である。
対象物質については、国連GHSでは原則として全ての化学品を対象にGHSの分類基準に照らして分類を行うこととなっており、対象物質リストがあるわけではない。一方、各国のGHS関連制度では、それぞれの法目的から対象とする物質範囲が限定されたり、当局がGHS分類を決定した物質リストが存在したりする場合がある(例: EU CLP 規則 付属書VI 表3.1)。わが国においても、いわゆるSDS 三法とよばれる労働安全衛生法(安衛法)、化学物質排出把握管理促進法(化管法)、毒物・劇物取締法(毒劇法)において、それぞれの法目的に沿ってSDS 提供や表示の対象物質がリスト化されている。しかしながら、GHSの基本的な考え方は、統一された分類基準に従って危険有害性があると分類された化学品に対してSDS 提供や表示を行うというものである。EU、米国をはじめ各国のGHS関連制度においても、一部の物質については当局がリスト化しているものの、リストに収載されていない物質については事業者自らが分類を行った結果に従いSDS 提供やラベル表示を行う、いわゆるクライテリア方式となっている。わが国においても、2012 年の安衛法労働安全衛生規則の改正により、法令で指定された対象物質以外の危険有害性を有する全ての化学品についても表示及び SDS 交付が努力義務化されているため、注意が必要である。
混合物中に含まれる成分の濃度限度についても、国連GHSで一般的なカットオフ値/ 濃度限度が設定されているものの、2 種類の濃度が設定され、いずれを選択するかは各国当局の判断に委ねられている部分もある(例:呼吸器感作性、皮膚感作性の区分1)。さらに、各国の法規制に導入される段階で、それぞれの法目的や既存制度における濃度限度も考慮して濃度限度が決定されることから、各国の制度間で異なるケースがある。例えば、米国の危険有害性周知基準(HCS 2012)では、発がん性や生殖毒性の区分2、特定標的臓器毒性(単回・反復)の区分1、2 等の分類に用いる濃度限度がわが国やEUより低く設定されており、注意が必要である。
対象物質や濃度限度の違いに加え、各国当局による分類結果に違いがあるというのも大きな課題である。これらの分類結果には、法的強制力があるものと参考情報としての位置づけのものがあり、化学品を世界各国へ供給する際に問題となる場合が多い。GHS分類結果のハーモナイズについては国連やOECDの場で検討課題として挙がっており、いくつかのケーススタディが実施あるいは予定されているが、現状では各国へのGHS制度導入が優先となっており、分類結果のハーモナイズは、残念ながらまだまだ将来的な課題といえそうである。


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<第3回>
化学物質管理規則上の成形品である購入部品での含有化学物質について、サプライヤーに調査回答を依頼した際、法的に回答を要求はできるものでしょうか?
また含有化学物質の把握のために対価を要求される場合があると思います。その際は、ユーザー側かサプライヤー側のどちらが対価を支払うのが妥当でしょうか?

 

極端な場合は、サプライヤー側から回答を拒否される(できませんと回答される)場合があると思いますが、拒否を受け入れなければならないでしょうか?

ご質問は典型的なサプライチェーンのコミュニケーション問題である。まず、法的に調査回答を要求できるかどうか、を考えてみよう。この点はサプライチェーンだけでなく化学物質管理規則対応の全般に関わることであり、さらにいえば法規対応する際の考え方の基盤とならなければならない点である。
簡単にいえば「その国の法律は、その国の中の人にだけ影響を及ぼす」ということである。国の主権の及ぶ範囲でその国の法律は有効となることは、日常生活でも当然のこととして受け入れられているのはいうまでもない。化学物質管理規則についても同様である。例えば、日本の化学物質管理規則である化審法は日本国内の製造者・輸入者に、EU REACHはEU域内の製造者・輸入者等に強制力を持つということになる。

次に、法規対応の義務を誰が持つかということを具体的に検討する。
日本において多数となるケースは、サプライヤー・ユーザーともに日本国内にあり、ユーザーが購入部品を輸出し、その現地法人が仕向け先国内の輸入者として第二のユーザーとなる場合と思われるので、これに沿って回答していきたい。また、質問にあるような成形品である購入部品での含有化学物質が問題となるのは、ほとんどEU REACH規則での、いわゆるSVHCの届出・情報開示要求に関わると思われるので、具体的にはREACH規則を想定して、第二のユーザーがEU域内にいると仮定する。
まず「法的に調査回答を要求できるかどうか」についてだが、上述のことを踏まえればサプライヤー側が調査回答を拒否してもユーザー側は受け入れざるをえない。
押さえておきたいポイントは、この場合の法的義務者は、EU 域内の第二のユーザーであるということである。REACH規則はEUの法規であるし、EUの主権は日本には及ばないからである。ただし、これでは法的義務者が明らかになっただけで、実務上の解決は得にくい。第二のユーザーは、調査回答がなければ、輸入・販売上のコンプライアンスに不安を残すことになるのである。
それでは実務上の解決をどこに求めるかということになるが、サプライヤー・ユーザーが協力して対処するしかなかろう。日本国内においては、EU REACH規則の強制力はないが、対処しなければ現地ではビジネスが成り立たない。多くの場合は、協力体制を確立した上で、サプライヤー側からユーザー側への含有化学物質の情報伝達によって解決されているといえよう。
サプライヤー側が調査に応じない場合では、ユーザー側での対処が必須になる。ユーザー側は部品をEUに輸出するには、含有化学物質を把握する必要があるだろう。部品全体を分析するという手段もあるが、多くの場合はコスト度外視を覚悟しなければならないだろう。
このような状況になると、ユーザー側が取れる一番簡単な手段は対処に協力的なサプライヤーに切り替えるということになってしまう。REACHのコンプライアンスに問題のないサプライヤーは、EU域内のサプライヤーということになる。REACH規則の目的の一つである「EU競争力の増進」に合致するといってよいだろう。

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<第4回>
各国のGHS導入について、2015 年はGHS対応が義務化された国が多かったが、今後、対応が急がれる国はどこか?

質問にあるように、2015 年は欧州、米国をはじめマレーシア、フィリピン、シンガポール等の東南アジア各国でも混合物のGHS対応期限を迎え、海外向け製品のSDS・ラベル対応に苦慮した企業は少なくない。気になる今後の予定として、図表1 に2016 年以降の各国の主なGHS導入予定をまとめたので参照されたい。


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また、国内の関連情報として、2015 年6 月に公布された労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令が2016 年6月1 日より施行され、表示対象物質が通知対象物質の範囲まで拡大されている点にも留意されたい。

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<第5回>
サプライチェーン上の情報伝達における化学物質管理規則の位置づけについて教えてください。

化学物質管理規則への対応の概要を便宜的にここでは、化学物質の特定、化学物質の登録、危険有害性情報の把握、危険有害性情報の伝達に分けて考えてみる。

1. 化学物質の特定: 製造・輸入する化学物質を特定する
2. 化学物質の登録: 特定された化学物質が化審法などの既存化学物質でなければ、通常は登録が要求される
3. 危険有害性情報の把握: 物理化学的性状、人・健康への影響、環境影響などの危険有害性情報を把握する
4. 危険有害性情報の伝達: 化学物質の使用者に危険有害性情報を伝達する

この第4 項がいわゆるサプライチェーン上の情報伝達として認識されているものである。情報伝達の手段としてGHSにより危険有害性情報が記載されたSDS・ラベルを用い、当該化学物質の製造・輸入者から、サプライチェーンの川下の使用者に危険有害性情報を伝達していく。川下使用者にとって化学物質の安全使用のために必須の情報となる。
危険有害性情報の伝達の対象は化学物質単体、混合物、一部の成形品であるが、サプライチェーン上での危険有害性情報の開示・非開示について考えてみたい。
化学物質単体の場合には危険有害性情報の伝達にあたって、通常その化学物質の特定情報などは開示される。
次に混合物の場合、SDS にその成分情報を記載することになる。特に危険有害性を有する成分については、その化学物質の特定情報を開示・記載することは必須であることが多い。その他の非危険有害性成分については、非開示でも良いことが一般的である。
また成形品については、EU REACH規則では成形品そのものの危険有害性情報ではなく、含有する指定物質情報を伝達することが定められている。

このように基本的に危険有害性情報を伝達すれば良いのであるが、国によって危険有害性を有するとして指定される物質が完全に同一ではなく差異があることはやむをえないことであろう。特に混合物の成分情報では日本では非開示でも、他国では開示義務を課せられる場合も考えられる。
混合物を日本国内で調達・仕入れして他国に輸出するような場合は、仕向け先国の法遵守チェックのために全成分の情報が必須となる。法遵守チェックは主に、仕向け先国での化学物質管理規則に登録されているかどうか、危険有害性情報についての確認となるであろう。
この法遵守チェックを誰が実施すればよいか、結果、登録されていなかった場合誰が登録するのか、コストの分配はどうするのか、など様々な課題が推測できる。

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<第6回>
SDS の3項に記載する組成および成分情報について、配合物の場合、他社に組成情報を知られたくないケース(配合組成自体がノウハウ)がある。成分名を非開示にするための方法などあるか? 日本と海外でこういった対応の可否に違いがあるか?

特に調剤メーカーにとって、配合物の組成情報の開示はノウハウ流出につながる大きな問題である。GHSでは、混合物中にカットオフ値/ 濃度限界を超えて含まれるすべての危険有害成分(混合物の危険有害性分類に寄与する成分)についてSDS 3 項に記載することとされており、各国とも基本的にはこの方針に沿った対応が求められる。一方、秘密情報の取扱いについては、国により違いもみられる。例として、図表1 にわが国と欧州、米国の関連法令における秘密情報の取扱いをまとめた。


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特に米国では、Trade Secret として成分名や濃度を非開示とすることが広く認められている。ただしその際、SDS 中に非開示とした成分の危険有害性も考慮した当該製品を安全に取り扱うために十分な情報が提供されていなければならない点に注意が必要である。
SDS 中の情報開示/ 非開示については、このように各国で運用ルールが異なることもあり悩ましい問題であるが、ユーザーに対して化学品を安全に使用するために必要な情報伝達を行うというGHSの基本理念に沿って対応を行うことが重要であろう。

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<第7回>
海外化学品規制の中で“ アーティクル” という用語があるが、これはどのようなものか? アーティクルに該当することにより対応事項が異なるか?

“ アーティクル(article)” は、日本語では“ 成形品” と訳されることが多い。大まかには“ 特定の形状やデザインを有し、化学組成よりも形状やデザインがその機能を決定するもの” と解釈され、わかりやすい例として、合成樹脂製什器、板、棒などが挙げられる。化学品規制においては、米国TSCA や欧州REACH規則で“article” が定義されており、わが国の化審法においても、TSCAやREACHにおけるアーティクルに相当するものとして固有の商品形状を有する“ 製品”が定義されている。


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アーティクル中の化学物質は、これまで各国の化学品の事前審査制度(上市前の登録申請)の対象外とされてきた。この点で、化学品(単一物質、混合物)と一線を画している。ただし、TSCAの重要新規利用規則(SNUR)に規定された場合や、REACHの制限に該当する場合等は、アーティクル中の化学物質についても制限・禁止等の規制措置が課されるため、これらへの対応が必要となる。さらに近年は、REACHにおいてアーティクル中の高懸念物質(SVHC)の届出や情報伝達の義務が導入されたことを受けて、各国で同様の制度を導入する動きがある。アーティクル中の化学物質に関する管理・規制の動きは今後ますます高まると予想され、特に、アーティクル中の有害化学物質の把握が求められるケースが増加することが予想される。

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<第8回>
アーティクルか化学物質・混合物であるかの区別について、特にグレーゾーンといわれるケースとは何か?

法規対応の第一歩として、対象となる自社製品がアーティクルであるか化学物質・混合物であるかを区別することが必須であることは言うまでもない。
アーティクルである日本の輸出製品の代表例として、電気電子製品や自動車などを挙げることができる。また、化学物質・混合物の例としては、塗料や接着剤などがイメージしやすいであろう。大部分の製品はアーティクルか化学物質・混合物かの区分けについて、疑問を感ずることなく分類できると思われる。

しかし、中には、アーティクルか化学物質・混合物か判断に迷う、いわゆるグレーゾーンケースがある。グレーゾーンケースとして粒子状物質~球状物体を取り上げ、アーティクルの定義としてEU REACHの「製造時に特定の形状、表面やデザインを与えられ、化学組成よりそれらの形状、表面やデザインが機能を決定するもの」を踏まえて考えてみよう。
粒子状~球状物体のサイズをナノサイズからパチンコ玉以上のものを想定してみる。
まずパチンコ玉程度より大きなサイズの物体については、アーティクルとして分類するのが妥当である場合が多いだろう。このような物体は「化学物質」として意識されること自体が少ないかもしれない。アーティクルの定義に照らし合わせてみて、例えばパチンコ玉は転がることが機能でありそのために球状という形態をとっているとすれば、アーティクルと考えて良いだろう。
ここから想定する粒子のサイズを徐々に小さくして直径数mm程度としても、その機能が球状であることにより決定されるのならばアーティクルと考えて良いかもしれない。
しかし、さらにサイズが小さくなり数μm程度となって、大気中を浮遊して呼吸により吸引される場合もあるかもしれないとなると、その機能が球状であることに依っておりEU REACHのアーティクルの定義に合致していたとしても、化学物質としてのリスク管理を考慮しなければならないと思われる。米国TSCAのアーティクルの定義に「ただし、液体と粒子は形状やデザインに関わらずアーティクルとは見なされない」とあることはEUの定義との差として注意すべきであり、併せて粒子とは何かという定義も必要であろう。

このように粒子状~球状物体のサイズを少しずつ小さくしていったときに、アーティクルと化学物質・混合物の境界線はどこにあるのか明確な線引きについて、常に適用できるような一般的なルールを設定することは困難と思われ、いわゆるグレーゾーンケースとして慎重に取り扱い、実際の人・環境へのばく露を考慮して化学物質としてリスク管理が必要かどうかなど、多面的な検討を要すると思われる。

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<第9回>
アーティクルの法規対応の義務者は誰になるのか?

日本で生産されたアーティクルである最終製品が、海外に輸出される場合を想定してみる。
まず法規への対応義務者は輸出先国在住の輸入者である。日本の生産者は届出内容となる情報を輸入者に伝えることが必須になる。
例えばEU REACHでの主な法規対応は、最終製品に含有されている指定物質(いわゆるSVHC)の届出や情報伝達なので、この指定物質の情報把握が必須である。
日本国内の生産者に法的要求はないが、法的義務の生ずる輸出国先在住の輸入者のためには物質情報把握が必須となり、この情報把握なしでは事実上輸出不可能となる。
生産者は自身で使用する素材・材料などの供給者からさらに情報を取得することがどうしても必要になる。ここにサプライチェーンの情報伝達という課題との関連性が浮き彫りになってくる。

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<第10回>
国内の「既存化学物質」の定義について:
(1)化合物を「職場の安全サイト」や「CHRIP」等で検索した場合、CAS 番号検索で「情報なし」との結果が出ても日本語名称で検索すると出てくる場合もある。このような場合、いずれかの検索でヒットがあった場合は「既存化学物質」として扱ってよいか?
(2)「既存化学物質」「名称公表済み新規化学物質」「既存物質扱いとなる化学物質」の違いについて知りたい。それぞれ位置づけとしては「既存」として同じ扱いということでよいか?
(3) 化審法における高分子化合物の取り扱いについてはどうか? 高分子と他の化学物質では判断基準は異なるか?
(4) 試験研究のみに用いる化学物質が新規化学物質である場合は、どのような取り扱いになるか?

(1)化審法、安衛法における「既存化学物質」とは、既存化学物質名簿に記載された化学物質である。既存化学物質名簿には包括的な名称で収載されている物質も多く、既存化学物質の該当性は当該化学物質が既存化学物質名簿に掲載された化学物質名で読めるかどうかにかかっている(CAS番号は参考情報といえる)。質問のケースの場合、当該物質の名称が既存化学物質としてCHRIP等に掲載されているのであれば、既存化学物質として扱ってよいと考えられる。
既存化学物質の該当性について判断に悩む場合は、NITE や専門調査機関への相談も検討されたい。

(2)(1)の回答に記載した通り、「既存化学物質」とは、既存化学物質名簿に記載された化学物質である。「名称公表済み新規化学物質」とは、新規化学物質として届出され5 年後に公示された物質であり、既存化学物質と同じ扱いと質問箱なる(現行化審法ではいずれも「一般化学物質」となる)。「既存物質扱いとなる化学物質」とは、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律の運用について」(平成23・03・29 製局第3 号) により「新規化学物質として取り扱わないものとする」とされているもので、既存化学物質のみから構成される分子間化合物、包摂化合物、水和物等や一定の条件を満たす高分子化合物等がこれに該当し、既存化学物質と同じ取り扱いとなる。

(3)高分子化合物における既存か新規化学物質であるかの判断は、構成モノマーとその重量%に基づき行う。一定以上の構成モノマーが既存化学物質である場合、当該高分子化合物は新規化学物質として取り扱わない。ただし、新規化学物質として取り扱う場合でも種々の軽減措置が取られている。まず、事前確認制度が用意されており、規定された条件に合致して低懸念ポリマーの可能性があれば、通常の化学物質に比較して簡便な分析のみで確認申出が可能である。この確認申出は随時申請が可能であり審査も資料提出から一か月以内である。確認を受けた化学物質は公示されないので、例えば競合他社が自社より先に確認を受けていたとしても、これを知ることはできず一社ごとに確認申出を申請することになる。事前確認の要求事項を満たすことができない場合でも通常届出は可能である。

(4)試験研究のみに用いられる化学物質は、化審法における新規化学物質の届出等の対象外となる。

参考文献 http://www.nite.go.jp/data/000009521.pdf

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<第11回>
韓国化評法における既存化学物質の取り扱いについて、化審法との差異はあるか?
差異があれば、それはどのようなものなのか。

韓国化評法(K-REACH)においても既存化学物質の定義は、化審法と同様に既存化学物質名簿に収載されている物質である。包括的な名称で名簿に収載されている化学物質も多く、既存化学物質の該当性に関する事情もまた化審法と同様である。
韓国化評法における既存化学物質・新規化学物質の定義について以下に挙げる。

■ 既存物質:
1. 1991 年2 月2 日以前に韓国内で商業用として流通した化学物質で、環境部長官が雇用労働部長官と協議し告示した化学物質
2. 1991 年2 月2 日以降、「有害化学物質管理法」(※)により有害性審査を受けた化学物質として環境部長官が告示した化学物質
※ 2015 年1 月1 日を以って有害化学物質管理法から化評法に移行した。

■ 新規物質:
既存物質以外のすべての化学物質

ただし、化評法では新たに登録された新規化学物質を既存化学物質名簿に追加することは規定されていない。端的に言えば、規定の変更などがない限り、今後、既存化学物質が増えることはなくなった。
注意したいのは、製造・輸入数量の届出である。化評法においては、製造・輸入数量の届出が一年に一回要求されるが、対象となるのは「新規化学物質及び年間一トン以上製造・輸入した既存化学物質」である。化評法施行後に化学物質を一旦登録しても既存化学物質名簿には収載されず新規化学物質の扱いとなるので、たとえ数量が1 トン/ 年とならなくても数量届出の対象となることには留意すべきであろう。

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<第12回>
日本では陸送の場合、例えば水生環境有害性のUN危険品であっても、UN梱包やUN絵表示は必要ないが、その危険品の梱包上に「イエローカード」または「容器イエローカード」のラベルの貼り付けは必要で、そこにはUN番号と、緊急時の応急措置方法についての指針である指針番号を記載する必要があると考えている。
UN危険品の日本での陸送の場合は、上記の対応で問題ないか? イエローカードが必須で、容器イエローカードは努力義務か?

 

国内の陸上輸送には国連危険物輸送勧告が導入されておらず、消防法、毒物及び劇物取締法(毒劇法)、高圧ガス保安法等の関連法令に従った梱包、表示が基本となる。ただし、消防法、毒劇法、高圧ガス保安法、火薬類取締法、道路法で規制される有害危険品に該当するものはイエローカード携行の対象となる。このうち毒劇法、高圧ガス保安法で規定された基準に該当する場合はイエローカード携行が法的に義務付けられていることから、これらの有害危険品については国連番号等を記載したイエローカードが必須といえる。なお、消防法においては行政指導(通知)によるイエローカードの普及が図られている。


月刊化学物質管理 質問箱
 

一方、容器イエローカードは、イエローカードを補完する目的で考案されたものであり、法的な義務付けはない。しかしながら、少量危険物や混載便輸送においては容器イエローカードによる国連番号と指針番号の情報伝達が望まれる。
質問への回答としては、イエローカードは規定された基準に該当する危険品について必須、容器イエローカードは努力義務ということになるが、少量でも危険性がある、あるいは流出により著しい環境汚染が懸念される場合は、事業者の判断でイエローカードの携行と容器イエローカードの表示を行うのが望ましいといえよう。

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<第13回>
第12回 にあるように、危険品の輸送について日本では陸上輸送では国連危険物輸送勧告は適用されないが、海上輸送や航空輸送では適用されている。このような差はどうして生じているのか?

端的にいえば、日本と陸上で国境を接している国はないためか、日本は危険品の陸上における輸送規則を国際的に合意して関連条約などに批准・締結していない。これは、国内陸上輸送に関連する消防法などの国内法規と国連危険物輸送勧告の差異が大きいことも原因していると思われる。
国際的に危険品輸送は国連危険物輸送勧告に基づき、海上輸送、航空輸送、陸上輸送の3 つのカテゴリーに分けて規定されている。日本も海上輸送と航空輸送については条約を締結している。

■ 海上輸送
海上輸送についてはSOLAS条約を基本的な取り決めとして、IMO, IMDG, IBC の各コードによって運用されている。
IMOコード : SOLAS 条約の具体的な内容である。
IMDGコード : 国連危険物輸送勧告に即して、具体的に危険物の容器、包装、積載方法等を定めている。
IBC コード : 危険化学品バルク輸送のための船舶の構造・設備を取り決めている。

■ 航空輸送
航空輸送については、国際民間航空条約(Convention on International Civil Aviation) が基本的な取り決めとなっている。
IATA DGR : 具体的な内容は、民間航空業界団体IATA(国際航空運送協会)が毎年発行している。

■ 陸上輸送
陸上輸送についての条約・協定に日本は不参加である。
1. 道路輸送 欧州道路上危険物輸送協定 ADR: The European Agreement concerning the International Carriage of
Dangerous Goods by Road
2. 鉄道輸送 COTIF 条約付属書C 国際鉄道危険物輸送規則RID: Regulations concerning the International Carriage of
Dangerous. Goods by Rail
3. 内陸水路輸送 危険物の国際内陸水路輸送に関する欧州協定AND: European Agreement Concerning the
International Carriage of Dangerous Goods by Inland Waterways

参考文献
1) 我が国のGHS導入状況 平成 24 年 6 月 21 日 GHS関係省庁連絡会議
http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/int/files/ghs/ghs_120723.pdf
2) 平成 23 年度「危険物の海上運送に関する調査研究」報告書
https://www.nkkk.or.jp/pdf/public_business_report_3-01.pdf

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<第14回>
同じ製品を複数国へ販売しようと計画しています。各国ラベル規準への対応のため、各国規準に対応したラベルを作成し、そのラベルを複数添付(1 製品に4 つラベルを貼る等)しようと考えていますが、法規上問題があるでしょうか?
この際、各国のGHS規準(ビルディングブロック等)の違いにより、製品としての分類が異なるラベルが貼られる可能性があります。異なるラベルが同一製品中に添付されることは、査察時や通関時に問題になるでしょうか?

国連GHSは化学品の危険有害性情報伝達を統一した様式で行うことを目指しており、本来の趣旨からすると同一製品のGHSラベルはどの国や地域でも同一の内容となるべきである。しかしながら、現状ではGHSをまず各国に導入することが優先されており、質問にあるように、同一化学品について各国のGHS制度の違い(ビルディングブロック、当局による分類の相違、混合物の分類におけるカットオフ値の違い等)により、出荷国ごとに分類が異なる、あるいはラベルに記載する内容が異なるといった問題が往々にして生じる。こうした状況の中で、複数国向けに化学品を出荷する際のGHSラベル対応は難しい課題である。実際には、質問者が考えているように、同一化学品に複数国向けのGHSラベルを貼付するという例も少なくないのではないか。
さて、難しい問題であるが質問への回答に入りたい。複数国向けのラベル貼付を法規上明確に禁止している国や地域は、筆者が把握している限りは存在しない。しかしながら、「異なるラベルが同一製品中に貼付されることは査察時や通関時に問題になるか?」という質問に対する回答は、「問題になることが懸念される」と言わざるを得ない。同一製品中に分類の異なる複数のラベルが表示されていると、情報の受け手は混乱し、円滑な情報伝達が妨げられることが明らかなためである。当然、査察や通関時に指摘を受ける可能性も考えられる。ちなみに、複数国向けのラベル貼付を直接的に禁止するものではないが、EUのCLP 規則第32 条第6 項では、他の共同体の法規で要求されるラベル要素については、同規則第25 条を参照して補足情報のセクションに記載する旨が規定されている。

Label elements resulting from the requirements provided for in other Community acts shall be placed in the section for
supplemental information on the label referred to in Article 25.( CLP規則第 32 条第 6 項)

ここで、同規則第25 条は補足情報に関する規定であり、その第3 項では、補足情報として記載する情報は、ラベル要素を特定しにくくしたり、ラベルの情報と矛盾したりしないこととされている。

The supplier may include supplemental information in the section for supplemental information on the label other that
referred to in paragraphs 1 and 2, provided that that information does not make it more difficult to identify the label
elements referred to in Article 17(1) (a) to (g) and that it provides further details and does not contradict or cast
doubt on the validity of the information specified by those elements. ( CLP規則第 25 条第 3 項)

上記より、少なくともEUにおいては、異なる分類が貼付されたGHSラベルは受け入れられないと考えるのが妥当だろう。その他の国や地域についても、やむを得ず複数のラベルを貼付する場合には、顧客からの問い合わせや、査察や通関時における指摘を想定しておく必要があろう。

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<第15回>
化学物質が同一であっても、当局により提示されているGHS分類とラベリングが国ごとに異なる場合や、そもそも規制対象になっている化学物質が異なることも多いと思います。SDS とラベルに各国ごとに異なるGHS分類とラベリングを忠実に反映させれば、その内容は自ずから異なるものになります。
このような場合はどうしても各国ごとに異なるSDS とラベルを作成せざるを得ないと考えられます。どのように対処すればよいでしょうか?

国連GHS勧告ではSDS とラベルの作成者は、承知している危険有害性情報は全て記載することが前提になっているので、作成者が承知している危険有害性情報および各国で提示されたGHS分類を全て統合してSDS とラベルに反映させれば、少なくともGHS分類については統一されたSDS とラベルが出来上がり、各国ごとに異なるSDS とラベルを作成することは回避できそうである。
各国規制リストに収載されている化学物質では、SDS とラベルの作成者がそのGHS分類とラベリングを採用するかどうかは、多くの国で任意である。当局による分類結果の採用を強制している国は筆者の知る限りEU、中国の二か国であり、中国の場合はその端緒に着いたばかりである。
一例としてEU向けと日本向けのSDS とラベルの作成について考えてみる。
EU域内では、CLP 規則により強制力のあるGHS分類とラベリングを提示しているので、EU域内でのSDS とラベルにはこれを採用しなければならない。
一方、日本ではNITE によって示されているGHS分類とラベリングの採用は任意である。
この二つの地域でのSDS とラベルを統一しようと思えば、強制力のあるEU CLP 規則によるGHS分類とラベリングを採用すれば、少なくともGHS分類に関してはEU域内でも日本でも法規対応可能なことになる。これは、両地域での規制物質の差などは考慮せず、単純化した考察の結果であることはご承知いただきたい。
留意しておきたいのは、各国規制で提示されたGHS分類の根拠となる危険有害性が、SDS とラベルの作成者にすべて承知されるべきかどうかは、一概には決められないということである。その理由は、分類とラベリングの根拠になるデータの入手可能性、データの取捨選択、データ解釈結果の差、混合物であれば混合物中の対象となる化学物質の状態による危険有害性発現の差異など様々である。
SDS とラベルを統一せずに、各国ごとに異なるものを用意することに法規上問題はないが、すでに判明している危険有害性を明記しないことになる場合もあるので、この点は注意が必要である。
根本に立ち返ってSDS とラベルは誰のためのものか考えることも有用であろう。言うまでもなくその化学品の安全な使用のためである。SDS とラベルの記載を守れば、化学品使用者の安全が担保されるべきである。このためにもラベルの統一を目指すことが望ましいと思われる。

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<第16回>
REACH の1-100 トンの本登録期限が2018 年5 月末に迫ってきていますが、どのようなことに注意して進めていく必要がありますか?

REACHの登録期限まであと1 年とわずかとなった。登録事業者(域外にあっては唯一代理人(OR)に登録を依頼する事業者)としては、まったなしの状況である。登録予定物質について100 トン超の登録事業者がおり、既にSIEF 活動が軌道に乗っている場合は、SIEF からデータ参照権(LoA)を購入し自らの登録資料(技術一式文書等)を作成するといった作業を進めることとなる。
これまでに物質の同一性やCLP 分類の内容、費用分担の方針等についてSIEF 内で合意できていれば、淡々と登録作業を進めることができるだろう。ただし、10-100 トンの物質については技術一式文書に加えて化学品安全性報告書(CSR)を作成する必要があり、さらに危険有害性がある場合はCSRにおいてばく露評価、リスク評価も必要となるため、注意が必要である。
SIEF で包括的なばく露シナリオを含むCSRテンプレートが提供されるかを確認しておくのが望ましい。
一方で、100 トン超の登録事業者が存在せず、SIEF が結成されていない場合は、自力で登録に必要な情報を作成しなければならない可能性が高く、特に10-100 トンで健康影響に関する試験データが必要となる場合、2018 年5 月末の登録期限に間に合わせるのは極めて厳しい状況にあること認識すべきだろう。
川上事業者によるREACH登録対応を想定している川下企業(商社等)は、予備登録された物質が登録期限までに登録を完了できないリスクについて考慮しておくのが望ましいだろう。

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<第17回>
REACH 本登録後は、登録事業者(域外事業者、代理人)としてはどのような対応(維持管理)をしていく必要があるのでしょうか?

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REACH登録は、登録作業が終わればゴールという訳ではない。EUへの当該化学品の輸出が継続する限り、登録の維持管理が必要となる。域外事業者がORに登録を依頼したケースにあっては、登録後の主な作業としては、輸入者情報及び輸入量の管理、必要に応じたSDS の更新、必要に応じた登録文書の更新が挙げられる。
通常、域外事業者はORとREACH登録のメンテナンス契約を結び、これらの維持管理作業をORに依頼するとともに、必要な情報をORに提供することとなる。

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<第18回>
混合物SDS作成の際に混合物のGHS分類を得るための手段として、成分となる原料の危険有害性に基づいてそれぞれの危険有害性クラスに設定されたカットオフ値/ 濃度限界から分類判定することが主流と思いますが、「混合物そのものの試験データ」も利用できると聞きました。これは現実的な方法でしょうか?

混合物の分類についてもう一度原則を確認してみよう。
GHSの国連勧告文書の記述を以下に示す。

1.3.2.3.1
(a) 混合物そのものの試験データが利用できる場合、混合物の分類は常にそのデータに基づいて行う。
(b) 混合物そのものの試験データが利用できない場合には、混合物の分類が可能かどうかについて、それぞれの章で説明されているつなぎの原則(bridging principle)を考慮するべきである。
さらに、健康および環境に対する危険有害性クラスに関しては、
(c) もし(i) 混合物そのものの試験データが利用できず、(ii) 利用可能な情報が不十分でつなぎの原則が適用できなければ、既知の情報に基づいて危険有害性を推定するためにそれぞれの章に記述されている承認された方法を適用して、混合物を分類する。
(化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)改訂5 版; GHS 関係省庁連絡会議仮訳)
(a)の「混合物そのものの試験データが利用できる場合」は、混合物の危険有害性の判断には、最も正確で確実に思える。
一部の物理化学的性質に対する危険有害性クラスについては、データ測定自体が比較的安価でもあり、得られるデータの信頼性も期待できるので、混合物そのものの試験データの取得は現実的な方法と成り得るだろう。成分のデータの集成からは混合物全体のデータが推測しにくいが正確なデータが必要な場合などでは、特に効果的である。

引火点などはその典型的な例として挙げられるだろう(※データ取得が不要な場合については、別途規定されている;UN GHS 5th Ed. 2.6.4.2.2)。
一方で健康や環境に対する危険有害性クラスに対しては、混合物そのものの試験を実施することは試験そのものの困難さや、得られたデータの信頼性についても考慮が必要であり、また動物愛護や経済性の観点からも不利なので一般的な方法には成りにくいと考えられる。

以下にGHSの国連勧告文書から引用する。

1.3.2.3.2
多くの場合、生殖細胞変異原性、発がん性そして生殖毒性の有害性クラスに関して混合物全体としての信頼すべきデータは期待できない。そこで混合物は、これらの有害性クラスに関してそれぞれの章にあるカットオフ値/ 濃度限界を用いて、個々の成分に関して入手できる情報に基づいて分類される。混合物全体としてのデータが各章で記述されているように決定的である
場合には、混合物の分類はそのデータに基づいてケースバイケースで修正されてもよい。

(化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)改訂5 版; GHS 関係省庁連絡会議仮訳)

GHSの国連勧告文書やそれを踏襲している各国関連法規や規格では、新たなデータ取得のための試験は要求していないことも影響していると思われるが、「混合物そのものの試験データ」を取得した例は少数であろう。ただし先に挙げた引火点の例もあるが、危険有害性クラスによっては信頼できる「混合物そのものの試験データ」が効果的に活用できる場合もある。
現状の主流であるカットオフ値/ 濃度限界からの分類判定と「混合物そのものの試験データ」の活用の両者使い分けを考慮することが好ましいと考えられる。

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<第19回>
EU のCLP 規則の対象には消費者向けの日用生活品(マーカー等)も含まれるか? わが国では消費者製品はGHSの対象外と理解しているが、消費者製品へのGHS対応が義務化されている国や地域があれば教えてほしい。また、成形品のGHS対応について、各国による違いがあれば教えてほしい。

EUのCLP規則では消費者製品も対象に含まれる。質問中に例示されたマーカー(EUにおいては“ 容器入りの混合物”と解釈される)についても、CLP 規則に従った分類、表示、包装が必要となる。消費者製品のGHS対応について国連GHSでは、GHSによる情報伝達の対象者として、化学品を取り扱うすべての人、すなわち労働者、救急対応者、輸送関係者、消費者を挙げていているが、各国へのGHS導入は労働安全衛生に関連する法令をメインに進められており、現在のところ消費者製品のGHS対応を明確に法令で義務付けているのは、筆者が把握する限りEUのみである。
わが国の安衛法、化管法におけるラベル表示制度でも、消費者製品は対象外とされている。一方で、事業者による自主的な取り組みが進められており、日本塗料工業会、日本石鹸洗剤工業会をはじめいくつかの事業団体では既に消費者製品へのGHS表示を実施している。こうしたボランタリーベースでの消費者製品へのGHS表示は今後も広がっていくと予想される。

成形品のGHS対応について

一般的に化学物質管理において、対象物は、物質、混合物、成形品の3 つのカテゴリーに分けて管理される場合が多い。国連GHSでは、GHSの対象を化学品(物質及び混合物)としており、各国のGHS関連法令においても主な対象は化学品(物質及び混合物)である。しかしながら、成形品の解釈や定義が国や法令によって微妙に異なるという背景もあり、一部の成形品についてはGHS対応が必要となる場合がある。
図表 に、日本、EU、米国におけるGHS関連法令の対象物を示す。ここで「成形品」について、厳密には解釈や定義がそれぞれで異なるが、本稿ではざっくりと「固有の形状を有する製品」を想定して記載している。


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わが国では、固有の形状を有する製品であっても、危険有害性に分類され、事業者による取り扱いの過程で固体以外の形状、粉状または粒状になるもの等は対象となる点に注意が必要である。EUのCLP 規則では、爆発物等の一部の成形品が対象に含まれる。一方、米国の危険有害性周知基準(OSHA HCS)では、成形品は適用除外となる。

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<第20回>
樹脂原料やオイル等のSDSで、GHS分類の項目に「GHS分類基準に該当しない」とだけ記載されているものをよく見かけますが、その根拠は何によるものでしょうか?
また、その解釈として全ての分類について「分類対象外」ととらえてよいのでしょうか?
成分について危険有害性の実験データ等はインターネット上でも見つけられないため、「分類できない」と解釈すべきでしょうか?

まず、分類結果をどのように表すか、確認しよう。
経済産業省発行の事業者向けGHS 分類ガイダンスによれば、分類の結果、GHS区分に該当しない場合の分類結果での語句は下表のように、「分類できない」「分類対象外」「区分外」の3 種類が挙げられている。
法遵守のために従うべき「GHS に基づく化学品の分類方法JIS Z 7252:2014」では、このような場合分類結果をどう表すかは明示されていないので、この事業者向けGHS分類ガイダンスの記述に従うことで、サプライチェーンでの川上から川下の企業までコンセンサスも得やすく、コミュニケーションが取りやすいと考えられる。


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さて、質問に立ち返ってみると、「GHS分類基準に該当しない」という用語を使用する根拠は、上記を踏まえると明確ではないようだ。さらに「GHS分類基準に該当しない」と記述した意図を考えてみると、とにかく「基準に該当しない」ことが判定できた結果なのであるから、図表2 中の「分類できない」ではなかろう。よって「分類対象外」か「区分外」のどちらにでも取れるが、これ以上の詮索は無用と思う。「GHS分類基準に該当しない」は、分類結果の記述として広く認知された用語ではないからである。このような用語の使用自体は作成者の裁量にまかされているところもあるので一概には否定できないが、混乱を招くことは避けるべきであろう。
「また、その解釈として全ての分類について「分類対象外」ととらえてよいのでしょうか?」という質問が続くが、これについても図表2 での「分類対象外」の意味するところから、すべての分類について「分類対象外」と捉えることには無理があると思われる。

次の「成分について危険有害性の実験データ等はインターネット上でも見つけられないため、「分類できない」と解釈すべきでしょうか?」については、分類に使用するデータについては、原則的にGHS分類判定のためだけに新たなデータを取得することは要求されていない。危険有害性クラスの分類判定において、既存のデータのみを利用した結果、「分類できない」とすることは認められている。

「GHS に基づく化学品の分類方法JIS Z 7252:2014」より引用
5.3.1 一般事項
健康に対する有害性及び環境に対する有害性の分類においては, 既存のデータを利用する。物理化学的危険性の分類に
おいては, 危険有害性クラスの種類によって試験データを必要とする場合もある。

ただし、質問中にあるようにデータの有無を検索する手段をインターネットに限定して良い、ということではない。これは別の課題である。

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<第21回>
化学品のリスク評価方法について、何種類かの方法(コントロール・バンディングやECETOC TRA など)がありますが、どの方法でも良いのでしょうか。それぞれ一長一短があるようでどの方法が良いのか、またどの方法でできるのか迷っています。

労働安全衛生法の改正により平成28 年6 月1 日より化学物質のリスクアセスメントの実施が義務化され、化学品を取り扱う事業者によるリスク評価が進められている。労働安全衛生法に基づく化学品のリスク評価に利用できるツールとして、コントロール・バンディング(CB)に基づくものをはじめ種々のツールがあるが、法規上、リスク評価手法は規定されておらず、事業者の判断で適切な手法を選ばなければならない。このため、質問にあるように、具体的にどのような場合にどのツールを選択すれば良いか分からないという声も多い。
一般的にリスク評価は、まず簡易的な手法でスクリーニングを行い、必要に応じて評価の精緻化を行うという流れで実施される。リスク評価に利用できる手法やツールは、入手可能な情報(有害性情報、ばく露情報)に応じて異なるため、評価対象物質についてどのような情報が得られているかも手法やツールの選択において重要なポイントとなる。以下に、労働安全衛生法に基づく化学品のリスク評価においてスクリーニング的な位置づけで推奨されているCBと、より高次の評価ツールとして知られるECETOC TRAの主な入力パラメータを比較した。


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1) ここでは職場の安全サイトで公表されている「リスクアセスメント実施支援システム」に基づき記載
http://anzeninfo.mhlw.go.jp/ras/user/anzen/kag/ras_start.html
2) 欧州化学物質生態毒性・毒性センター(ECETOC)が開発したリスク評価ツール
http://www.ecetoc.org/tools/targeted-risk-assessment-tra/

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<第22回>
労働安全衛生法改正による化学物質のリスクアセスメント実施の義務化では、その対象はラベル表示・SDS交付義務対象663 物質(平成29 年3 月1 日現在)とされています。その他の化学物質については「努力義務」とされていますが、社内で「努力義務」というと「やらなくてもいいんだろう」とか「できる範囲でやればいいから、予算はつけられない」などと言われ、実施にあたって合意を得るのに苦労しています。「努力義務」についてどのように理解すれば良いでしょうか。

まず、663 物質以外のリスクアセスメント実施については、法第28 条の2 第1 項において、「危険性又は有害性等(第五十七条第一項の政令で定める物及び第五十七条の二第一項に規定する通知対象物による危険性又は有害性等を除く。)を調査し、その結果に基づいて、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならない。」とされている。これがいわゆる努力義務である。
ここで労働安全衛生法の「努力義務」とは何か、確かめてみよう。

「行政は努力義務規定に関しては、事業主の講ずべき措置について具体的な指針等を策定し、努力義務規定の実効性を確保することとなる」とある(労働立法における努力義務規定の機能 2004年 東京大学法学部 荒木尚志)。

そこで具体的指針について確認してみると「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(平成27年9 月18 日付け指針公示第3 号)が平成27 年9 月18 日に公示されている(適用は、平成28 年6 月1 日)。
したがって、ラベル表示・SDS 交付義務対象663 物質のほかの物質についても、この指針に従い、目標やその達成のためのマイルストーンを設定するなどしてリスクアセスメントの計画を策定・実施することが良いと考えられる。
また「改正 労働安全衛生法 Q&A集」(平成26 年9 月1 日 厚生労働省 労働基準局 安全衛生部)には、

「リスクアセスメントの対象とした化学物質及び業務について、法令に規定がない場合は、リスクアセスメントの結果を踏まえ、リスクが高いと評価されたものから優先的に、各事業者の判断により必要な措置を講じることが努力義務となります。」とある。

これらのことが示すように、義務対象とされていないその他の化学物質についてもリスクアセスメントの実施を進めていかなければならないと言える。また、努力義務とされた規定は、将来義務化されることがあるので、これを勘案することも必要ではないだろうか。

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<第23回>
REACH 規則において成形品中のSVHC含有率における分母の考え方は最終的にどのようになったのでしょうか?
(1)成形品の括りはどのようにとらえればよいのか?
(2)考え方の変更に伴う適用時期は?

回答1:
回答に先立ち、REACH規則における成形品中のSVHC *)に対する義務をおさらいしよう。

<成形品中のSVHCに対する義務>
・ 成形品の受領者あるいは消費者への情報伝達(規則第33 条(1)、(2))
EU域内で製造または輸入される成形品中にSVHCが0.1 重量%を超えて含まれる場合
・ 成形品中SVHCの届出(規則第7 条(2))
EU域内で製造または輸入される成形品中にSVHCが0.1 重量%を超えて含まれ、かつ、当該SVHCを0.1 重量%を超えて含有するすべての成形品中の当該SVHCの総量が事業者あたり年間1 トンを超える場合

*)SVHC(Substances of Very High Concern; 高懸念物質)は、REACH規則第57条に規定されたCMR(発がん性、変異原性、生殖毒性、PBT/vPvB(難分解・生物濃縮性・毒性/ 極難分解・極生物濃縮性)などの性状を有する物質のことである。上記に示した、成形品中に含有された場合の情報伝達や届出の義務は、この定義に合致する物質からさらに抽出された「候補物質リスト」に収載された物質に課されたものであるが、慣習的に候補物質リスト収載物質をそのままSVHCと呼ぶことが多くなってきている。ここでもその慣習にならって候補物質リスト収載物質をSVHCと呼ぶことにする。

ここで問題となってきたのが、成形品中のSVHC含有率を算出する際の分母を何にするか? という点である。特に多くの部品から構成される複雑な製品(例: 電子製品、自動車)において、成形品全体に対する重量%とするのか、あるいは部品に対する重量%とするのか、さらには部品に対する重量%とする場合、どの単位で考えればよいかといった様々な議論が起こった。欧州化学品庁(ECHA)は当初、0.1 重量%の分母は成形品全体であるとする解釈を示し、この解釈に沿ったガイダンスを作成していた。これに対し、6 か国(フランス、ドイツ、デンマーク、ベルギー、オーストリア、スウェーデン、ノルウェー)は反対意見を表明していた。

この論争に対して、2015 年9 月、欧州司法裁判所による裁定1)が下され、従来のECHAの解釈と異なり、0.1 重量%は個々の部品に対して適用されるべきとの判断が示された。これにより、成形品中のSVHC含有率は、成形品を構成する個々の部品に対する重量%とすることが明確となった。

(1) 成形品の括りはどのようにとらえればよいのか?
上述の通り、成形品中のSVHC含有率を算出する際の成形品の括りは、成形品を構成する個々の部品ということになる。ここでさらに問題となるのが、複雑な部品から構成され品の場合、どの部品まで分解して構成部品を特定するか? である。例えば、プリント回路基板は、多層平板上にプリント配線、コンデンサ、レジスタ、トランジスタ、インダクタ、ダイオード、マイクロプロセッサ、マイクロチップ、ファン、ネジをはじめとする多数の部品を搭載したものである。さらに、これらの部品ははんだや接着剤といった混合物を用いて基板上に固定されている場合が多い。
このような成形品において、どのレベルまで個々の部品として特定すべきか?
現在、ECHAでは欧州司法裁判所の判断に沿って成形品のガイダンスを改訂中である。ガイダンス文書ドラフト版(Draft Version 4.0, April 2017)2)では、複雑な製品(complex objects)(複数の成形品から成る製品)におけるSVHCの含有率の算出についての考え方や様々な具体例が掲載されている。
例えば、先に例示したプリント回路基板については、輸入者がプリント回路基板中に組み込まれた成形品を全て特定することは困難であることは認めつつも、物質や混合物が成形品に変換される時点までサプライチェーンを遡って情報収集することが有用とされ、物理的に分解できる最小部品まで遡って成形品を特定する方針が紹介されている。

ガイダンス文書には法的拘束力はなく、あくまで参考といえるが、分解できる最小部品まで遡って成形品を特定していくことは成形品の輸入者にとって極めて困難であり、サプライチェーン内で現実的な情報伝達方針を検討しなければならないだろう。ちなみに、欧州域内で製造される成形品に関しては、最小部品が製造された時点でREACH上の対応義務が果たされているとの前提に立ち、部品の組み立てを行う事業者は基本的には成形品中SVHCの届出等の義務は課せられないとの考えが示されている。域外からの輸入品に対してのみ高いハードルが課された格好である。

(2)考え方の変更に伴う適用時期は?
これまで成形品全体の重量を分母として対応してきた事業者は、どの時点から最小部品を分母とした対応とすべきか?
欧州司法裁判所が従来のECHAの考えと異なる判断が示したのは2015 年9 月であるが、これは本来REACH施行時より個々の部品を分母とした対応が必要であったことを示すものであり、未だ対応できていない事業者は速やかに対応する必要がある。特に、成形品全体の重量を分母とすることに反対してきた6 か国への出荷製品については、REACH施行時点に遡って対応を行うことも視野に入れておいた方がよいだろう。

参考文献
1) The judgment of the Court of Justice in case C-106/14:
http://curia.europa.eu/juris/liste.jsf?language=en&td=ALL&num=C-106/14
2) Guidance on requirements for substances in articles (Draft Version 4.0, April 2017)
https://www.echa.europa.eu/documents/10162/23047722/caracal_consultation_v_4_sia_guidance_en.pdf/1ac37e5f-9602-4923-f9d0-e9a1082a9fcf

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<第24回>
化学物質が製造され、化学品として使用され、消費者製品となり、廃棄されるまでどのように管理されているのか、全体を大掴みに把握したいと思います。


化学物質管理規則の対象となるモノと、それに対応するのは誰なのか、と言えば、化学物質を製造する化学企業、配合して混合物として化学品を製造する企業、一般消費者向けの最終製品を製造する企業です。製造・使用・廃棄というライフサイクルの各段階で様々な企業があり、サプライチェーンを構成していることを意識しておきましょう。
サプライチェーンの出発点は、化学物質そのものを製造する化学企業です。すぐ次の川下企業は、化学物質を配合・混合する化学品・素材を製造する企業となります。さらにその川下には、その化学品・素材を用いて、最終的な消費者製品を製造する企業が位置します。サプライチェーン全体の様子を単純化して以下の表 に示します。


まず、化学物質を製造・販売(上市)する場合には、その化学物質が政府のインベントリ(データベース)に収載されていることが必須です。インベントリに収載されている物質を「既存化学物質」、収載されていない物質を「新規化学物質」と呼びます。
新規化学物質をインベントリに収載されるように手続きすることを「登録」とか「届出」などと規則によって名称が違うことがありますが、ここでは「登録」に統一します。
登録にあたっては安全性評価を実施してその危険有害性を把握し、結果を所管する政府当局に提出・審査を経て許可された化学物質のみ製造・輸入が可能になります。インベントリに収載されて公開されるまでの期間は、各国規則によって多少の差はありますが、数年後であることが通常でしょう。この未公開期間では登録した企業のみが製造・輸入できることになります。
実際に登録をするのは、化学物質を製造する化学企業だけとは限りません。海外から化学物質を輸入するにあたり、輸入する国でインベントリに収載されていない、要するに新規化学物質である場合は、輸入する企業が登録を実施することになるでしょう。
化学物質が既存化学物質であった場合は、通常は登録不要で企業は製造・販売が可能とされています。
既存化学物質は、その国の化学物質管理規則が制定された時にすでにその国で流通していた化学物質であると考えてよいでしょう。制定時にこのような物質を把握し、既存化学物質としてインベントリを作成したわけです。そのため既存化学物質は網羅的な安全性評価試験が実施されておらず、その危険有害性が把握されていないことが多いです。
EU REACH規則では既存化学物質であっても個々の企業全てにそれぞれ登録することが要求されていますが、これは利害関係者である企業に安全性評価試験の実施の義務が課されているということを意味します。
安全性評価試験実施の結果、危険有害性を有すると判明したときは、程度によってその化学物質を別に用意された規制リストに収載して製造・輸入を禁止・制限することもあります。また使用にあたっても政府の認可を要求したり、使用方法を制限したりします。


次に、化学物質の安全使用に関する情報をサプライチェーンに伝達することが求められます。情報はサプライチェーンの川上側から川下側に伝達されるもので、川上側企業が把握した情報を川下側に伝達するということが通常であり、化学物質を混合・配合して製造される化学品・素材についても同様です。このような情報伝達のために用いられているのが安全データシートです。安全データシートは、SDS(Safety Data Sheet)と呼ばれることのほうが多いと思いますので、本稿でも以後SDS とします。
SDS の提供と同時に、化学物質や化学品のボトルやドラムなどのパッケージに直接貼付するものとして、ラベルも提供されます。
SDS は、定められたフォーマットによる16 項目からなる文書です。SDS やラベルに危険有害性を記述するために、絵表示や用意された定型文が用いられます。このような情報の記述と提供の方法についてのシステムがGHS(GloballyHarmonized System of Classification and Labelling of Chemicals)です。GHSは国連勧告文書として公表されており、各国では勧告文書に準じて自国の実情にあった法規や規格にして施行・運用しています。日本では、SDS・ラベルの発行・提供を労働安全衛生法とPRTR法に定め、SDS・ラベルの具体的な内容についてはJIS で定めています。
最終製品については、主にEU RoHS 指令やREACH規則への対処が発端ですが、含有する規制化学物質の情報を伝達するシステムが提唱・運用されています。このようなシステムはJAMP によるMSDSPlus やAIS、またJGPSSI から始まるものですが、現在でchemSHERPAが提唱されており、規格化・標準化が図られています。
このように現在の化学物質管理規則、特に情報伝達についてはサプライチェーン全体の企業が関わっており、お互いに連携・協力しなければならなくなってきております。
以下の表 に、上記のサプライチェーンの情報伝達要素についても併せて示します。


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<第25回>
法規の対象となる化学物質とは、どのようなものでしょうか。

製造・輸入・販売などの際に法規への対応が要求される対象となる化学物質は、学術的・科学的にいう化学物質全体より狭い、その法規の定義による限定された範囲になります。まず、化学物質全体としての定義ですが、もちろんこれは化学物質とは何かを定義するということと同義になり、あらゆるモノは化学物質により構成されている、とすることが通常です。

IUPAC (International Union of Pure and Applied Chemistry; 国際純正・応用化学連合)が公表している化学用語集であるゴールドブックには「chemical substance」として、

“Matter of constant composition best characterized by the entities (molecules, formula units, atoms) it is composed of.
Physical properties such as density, refractive index, electric conductivity, melting point etc. characterize the chemical
substance.”
https://goldbook.iupac.org/html/C/C01039.html
(構成する実体(分子、化学式、原子)によって最もよく特徴付けられる一定組成のモノ。 密度、屈折率、導電率、融点などの物理的性質は化学物質を特徴付ける。)とあります。

また、「化学大辞典」(東京化学同人)には、「すべての生物、非生物を構成する物質は原子であるが、大部分の物質では原子が結合して分子となり、または、さらに分子の集合体や高分子重合体を形成している。これらを独立の、かつ純粋な物質として化学物質とよぶ」とあります。このように物体全ては化学物質とされております。

ところで、2008 年に英国王立化学協会から化学物質でないものを持ち込んだ人には100 万ポンドの賞金! という発表がされたことがありました。
http://www.rsc.org/AboutUs/News/PressReleases/2008/ChemicalFree.asp

これは、有機肥料のTVコマーシャルで100% 化学物質フリーとするキャッチコピーに視聴者がクレームを付けたことから論争に発展し、英国王立化学協会のこのような「ゲーム」の発表につながったそうです。市民の意識としては自然由来のものは化学物質ではない、人工的に作られたものが化学物質だ、という意識があることを示す出来事ではないでしょうか。化学物質管理の担当者としては、自社製品が化学物質管理規則の対象になるかどうか、という判断の入り口なので「物体すべて化学物質」という意識は大事だと考えます。

次に個別の法律について、その化学物質の定義を見て行きたいと思います。法規での化学物質の定義や適用範囲は、条文の比較的冒頭のほうに書かれていることが多いです。化学物質の定義を確認することは、自社製品がその法規の対象となるかどうかの判断に必要となります。

補足ですが、法規上の対象かどうかの、その次の段階として、法規の対象範囲であっても特定の手続きなどに対して適用除外についての判断が必要なことがあります。法規上の対象外なのか、対象外ではないが法規内の特定の手続きなどに対しては適用除外なのか、実務上、この二つは混乱なくしっかり把握すべきでしょう。

以下に日本とEUでの化学物質の定義を示します。

1. 日本

1.1 化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)
化審法では、第2 条第1 項に「元素又は化合物に化学反応を起こさせることにより得られる化合物」と定められております。要するに、化審法は人工的に合成される化学物質を対象としていると言えるでしょう。化学物質であっても、例えば植物などから精製したり抽出したりするだけで化学反応が起こっていなければ、化審法における化学物質の扱いを受けません。

1.2 労働安全衛生法
「元素及び化合物をいう」(第2 条三の二)と定義されています。化審法と違い、反応させて生成させたものだけでなく、自然由来物などを加えたより広い範囲が指定されています。労働者が使用した場合の安全と健康の確保が主眼の一つと考えれば理解しやすいと思います。

1.3 化管法(特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律)
第二条に「この法律において「化学物質」とは、元素及び化合物(それぞれ放射性物質を除く。)をいう。」と定めております。労安法との差は、放射性物質を除外している点です。ただし化管法では対象物質として「第一種指定化学物質」「第二種指定化学物質」として具体的に指定された物質があり、PRTR、SDS 各制度の対象とされております。


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2. EU

2.1 REACH規則
第三条に「物質とは、化学元素及び自然の状態での又はあらゆる製造プロセスから得られる化学元素の化合物をいい、安定性を保つのに必要なあらゆる添加物や、使用するプロセスから生じるあらゆる不純物を含まれる。しかし、
物質の安定性に影響を及ぼさないで、又はその組成を変えずに分離することのできるあらゆる溶剤を除く。」(日本語仮訳; 化学物質国際対応ネットワーク ホームページより引用: http://chemical-net.env.go.jp/pdf_reach/REACH_final_j3.pdf)。

お気づきのように、日本では自然由来物は化審法では法規の対象になりませんが、REACH規則では対象になるところは注意が必要でしょう。一般的にも法規上の取り扱いの差異などに留意すべきであるのは言うまでもありませんが、日本では化審法での化学物質ではなくとも、EUへ輸出すれば化学物質扱いになる場合があることになります。

[追記] 英国王立化学協会のゲームには、電子トラップかラジカルトラップか何か忘れましたが、そのサンプルをオーストラリアから送ってきた方がおられ、電子・ラジカルは物質ではないと主張しましたが、やはり物質であることは否定できないとして100 万ポンド獲得には至らず、ただし、スタッフが運送費をポケットマネーで支払ったということが当時の協会のブログに掲載されていたと記憶しています。ブログは現在削除されているようです。

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<第26回>
化学物質管理規則の対応にあたり、すでに政府のインベントリに収載された既存化学物質と、対応しなければならない自社の化学物質の同一性はどのように判断すればよいでしょうか?
化学物質の特定(1)
化学物質の種別と同一性
自社が製造・輸入する化学物質について化学物質管理規則に対応するためには、その化学物質を特定することが、まず「最初にやること」になるでしょう。化学物質が特定できれば、政府のインベントリに収載されているかどうか、収載されている物質と同じかどうか、他社製造のものと同じとみなせるかどうか、など同一性について検討を加えることになります。

化学物質が政府インベントリに収載されているかどうか判断することは、化学物質管理規則の対応にあたり、最初にやるべきことの一つです。「単一物質」ならば政府の整理番号(化審法番号(日本)・EC番号(EU)など)やCAS番号が同一かどうかを判断すればよいことも多いでしょう。ただし、物質の同一性はそれほど単純なことではない上、限られた情報で判断が必要となることもあります。“ 番号が同じならよい” ということになりがちですが、このような意識を強く持ちすぎることなく慎重に進めるべきである、と言えるでしょう。

■ 化学物質の種別
「単一物質」という言葉が出てきましたが、まずこのような化学物質の種別(※)についてご説明いたします。ここでいう「種別」とは、化学物質の特定や登録のために区別される「単一物質」「多成分物質」「UVCB」の三種類を指します。

※ この立て分けの名称は確定されていないようです。ここでは「種別」としましたが、「分類」ではGHSを連想させ、単純な「種類」では有機化合物や無機化合物を連想するので、これらを回避するためです。

単一物質
高純度の化学物質については、単一の化学物質として取り扱います。ひとくちに高純度といっても数値としての目安はどのようなものかと言えば、法文中に数値的に明確な定義が示された法規はなさそうですが、そのガイダンス文書やQ&Aで説明されたものを挙げることはできます。そのような法規としてEU REACH規則と日本の労働安全衛生法を例として示します。

・ REACH 規則
ガイダンス文書(※ 2)では80 % 以上の純度を持つ化学物質を単一物質とする、とされています。また不純物として1 % 以上の成分は把握することが示されています。
例えば、80 % 以上の純度を持つ既存化学物質でEC番号が同一ならば、化学物質も同一とみなしてもよさそうです。ただし互いに異なる不純物を含むため危険有害性が異なる場合などで同一としてよいかどうかは、その程度によってケースバイケースの判断となるでしょう。REACH規則では、既存化学物質であっても製造者・輸入者ごとに危険有害性の把握が義務とされており、それぞれの製造者・輸入者がそれぞれの化学物質について、不純物も含めて危険有害性を把握することになります。その把握の進捗状況次第ですが、十分把握できた時点で同一性について検討を加えたならば、その結果として互いに異なるEC 番号が付与されることになる場合もあるでしょう。こうなれば互いに既存化学物質番号が異なることになりますから、番号を比較すればすぐに「同一ではない」と判定できます。危険有害性の把握は、既存化学物質の登録期限である2018 年5 月までに達成の目安が判明するはずです。
80 % 以上の純度を持つ化学物質を単一物質とするといった取り決めが成り立つのは、既存化学物質であっても、全ての製造者・輸入者がそれぞれの化学物質の危険有害性の把握が義務とされているため、ということも言えるのではないでしょうか。言い換えれば主成分は同じかもしれませんが不純物が異なる場合に危険有害性が異なることが判明すれば、別の物質として扱われる仕組みとなっている、と理解できます。話は違うかもしれませんがSIEF の結成・参加で物質同一性が厳しく吟味されることの原因でもあるでしょう。

※ 2 Guidance for identification and naming of substances under REACH and CLP May 2017, Version 2.1
https://echa.europa.eu/documents/10162/23036412/substance_id_en.pdf/ee696bad-49f6-4fec-b8b7-2c3706113c7d

・ 労働安全衛生法
不純物や副生成物であっても新規化学物質であれば、有害性調査を実施することとされていますので、含有率などの数値を目安とはせず、主成分と不純物・副生成物は単離可能な範囲においてそれぞれ独立した単一物質とみなす、という考え方と理解できるでしょう。ただし、含有率によって段階的に把握の程度が決められています。

厚生労働省の新規化学物質の届出に関するQ&Aでは、主成分が90 % 以上の純度の既存化学物質で、不純物が新規化学物質であって主成分から分離困難な場合には当局へ相談できるとされています。
また95 % 以上の純度の新規化学物質の場合で不純物が分離困難な場合には単一物質としてみなしてよさそうです。


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労働安全衛生法に基づく新規化学物質届出手続きQ&A
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei06/02.html

労働安全衛生法では、既存化学物質とされていれば、特別に規制を受けている化学物質等を除き、だれでも製造・輸入し使用できるため、新規化学物質の取り扱いについてこのような不純物についての取り決めが定められていると考えることもできるでしょう。

多成分物質
EU REACH規則ガイダンス文書(※ 2)に定義されており、10 % 以上80 % 未満の成分多数から成る化学物質とされています。10 % 未満の成分は不純物として取り扱われます。多成分であることは、製造プロセスの結果としてであって、後からそれぞれの成分の混合などによるものであってはいけません。
ガイダンス文書(※ 2)には例としてキシレンが挙げられています。

 


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図表1

UVCB
UVCBは、Substances of Unknown or Variable composition, Complex reaction products or Biological materials(組成が不明または不定の化学物質、複雑な反応生成物および生物材料)とされており、複雑な反応の結果などにより生成した構造はよくわからない反応生成物のひとかたまり、といった意味合いとされています。

REACH規則のガイダンス文書(※ 2)では10 % 以上の成分については、構造の把握と適切なCAS番号が付与されるべきであるとされています。これはPBT(Persistent,. Bioaccumulative and Toxic substances; 難分解性で高蓄積性および毒性を有する物質)の把握のためのものと説明されています。
UVCBの例をガイダンス文書(※ 2)より以下に示します。


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図表2

おわかりのようにReaction products ~から名前が始まっていますが、これは「○○と××の反応生成物」といった表し方になっていることになります。
なお、平成29 年度化審法の改正にあたって、2020 年目標達成のイメージとして掲げられたUVCBの構造情報収集において「評価単位や評価対象物質が決められないUVCB物質の評価が行えるように制度改善を行う」とされています。

⑥の詳細?構造情報収集の仕組み
・ 製造数量等の届出様式に構造情報の添付を求める。
・ 優先評価化学物質については、有害性情報の報告の項目に組成を追加することにより構造情報を入手可能とする。
・ 詳細な構造情報を求める物質は、一律ではなく必要な物質に限定する。
・ 一般化学物質?暴露クラス1~4等
・ 優先評価化学物質?有害性情報を求める構造範囲を決めるために必要な場合、リスク評価Ⅱにおいて必要な場合等
・ 詳細な構造情報を求める物質については、届出記載要領等に構造情報が必要な物質リスト及び必要な項目を記載することにより周知する。

 


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図表3

「化審法における2020 年目標の具体化について~化審法におけるリスク管理が2020 年までに達成すべき具体的なイメージ、目標とロードマップ~」より引用
http://www.meti.go.jp/report/whitepaper/data/pdf/20170213001_03.pdf

「単一物質」「多成分物質」「UVCB」の三種類についてご説明いたしましたが、次号は、化学物質の同一性(2)として、政府のインベントリ番号とCAS番号/ 海外輸入品の対応例について取り上げたいと思います。

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<第27回>
① キシレンを日本からEUへ輸出します。物質の特定番号としては化審法番号以外の情報がありませんが、EC番号を確認すべきでしょうか?
② 単一物質を輸入しようとしていますが、海外で作成されたSDSのため化審法番号や労働安全衛生法についての記載はありません。CAS番号はわかりますが、どのように調べればよいでしょうか。
③ 化学品(混合物)を海外から日本に輸入しようとしています。そのSDS にはGHSにより危険有害性を有すると判定された一部の成分のみのCAS番号が記載されています。全ての成分が化審法での既存化学物質であることは、海外供給元からの保証があります。問題なく輸入を開始できるでしょうか

 

化学物質の特定(2) 

政府のインベントリ番号
化学物質管理規則を施行・運用いる国々では、その法規に基づいた独自の固有番号を化学物質に割り当てて管理しています(※ 下記参照)。


回答

① キシレンの例に限らず、輸出先の国で既存化学物質かどうかは、まず最初に確認すべきことの一つです。したがってこの例でもEC番号を確認すべきでしょう。化審法番号のみがお手元の情報ということですので、異性体に関する情報を入手してEC番号を割り振るか、供給元からEC番号の提示を受けるべきです。EC番号を割り振る場合は、図表1からわかるように3-3 という一つの化審法番号から、実際の組成に即して四つあるEC番号のどれかを当てはめることになります。なおREACH規則の場合は、既存化学物質であっても年間1トン以上の製造・輸入にあたっては、製造者・輸入者ごとに登録が必要となります。

② 独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE)の化学物質総合情報提供システム(NITE-CHRIP) http://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/systemTop を利用することが、権威のある一般的な方法でしょう。CAS番号や化学物質名からの検索が可能です。インターネットでアクセスすれば、そのまますぐに誰でも使用できます。
また、労働安全衛生法の名称公表化学物質等(ラベル表示・SDS 交付義務対象物質も含む)については、「職場のあんぜんサイト」 http://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/KAG_FND.aspx からの検索も可能です。
もし可能ならば海外供給元から日本のJIS 規格に適時適合し、化審法番号なども明記された日本語のSDS を作成してもらうのが一番よいですが、現実的にはかなり難しいようです。

③ 化審法だけでなく、PRTR法や労働安全衛生法の対象物質が含まれている可能性があるかもしれません。特に労働安全衛生法のラベル表示・SDS交付義務の対象となる化学物質については、例えば「クロム及びその化合物」といったように化学物質のカテゴリーとして指定されたものがあるため、CAS番号などからだけでは特定が難しく、そのカテゴリーに入るかどうかは化学物質名などから判断しなければならないこともあります。それだけに海外供給元にとっては正確な対応はバリアの高いものになっており、結果的に注意を払われていないこととなっているおそれがあります。PRTR 法や労働安全衛生法の対象物質が含まれている場合にはSDS・ラベルの作成・掲示・配布などが義務となりますし、PRTR法では物質の数量届出の義務も発生する可能性がありますので、これらについての確認も必要です。

※ 独自の固有番号
CAS番号::アメリカ合衆国の民間企業であるケミカルアブストラクト社が管理している化学物質番号です。主に学術雑誌や特許に初出の化学物質の全てに番号を付与するため、物質数は、各国が法規によって管理する物質数よりも圧倒的に多く、世界最大規模です。なお、CAS番号が割り振られていない物質については申請すれば番号を付けてくれます。申請が必要になる場合としては、例えば日本特許を出願して公開特許になるまでの未公開期間で化審法の新規化学物質届出のためなどを挙げることができるでしょう( CAS番号は付与されれば、そのCAS番号は必ず公開されるので注意が必要です)。日本でのCAS番号申請は一般社団法人化学情報協会が取り扱っています。

化審法番号:日本の化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)に基づいて付けられた番号です。官報公示整理番号やMITI 番号とも呼ばれます。ちなみにMITI 番号という名称は海外でもそのまま通用します。

EC 番号:EU で管理されている番号です。REACH 登録番号とREACH 規則施行前の法規によるEINECS 番号やELINCS 番号なども含め総称してEC 番号と呼んでいます。ただしEC 番号というと、CLP 届出などによる番号なども含まれており、必ずしも上記3 種類の物質登録に係る固有番号のみを意味しませんので、注意が必要です。

それぞれの国がそれぞれの法規の枠組みの中で番号を付与しますので、同一の化学物質でも異なる番号が与えられることになるのが通常です。
次に、国による様々なインベントリ番号とCAS番号の関係がどのようなものか考えてみましょう。前回に続き、再びキシレンを例として取り上げます。キシレンにはご存知の通り、オルト、メタ、パラ体の3 種類の異性体が存在し、それぞれがCAS番号を持ちます。化審法では全ての異性体が同一の番号を持ちますが、例えばEUでは各異性体に別々のEC番号が関連付けされています。


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また、すぐにお分かりのようにCAS番号とEC番号では 3 種類の異性体に加えてその混合物についても番号が割り当てられています。

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<第28回>
単一物質をEUから輸入しようとしていますが、工業グレードで純度は80%程度です。化審法既存化学物質であることや、労働安全衛生法での規制状況については問題ないことが確認できました。残りの20%については情報がありません。化審法や労働安全衛生法上、単一物質として取り扱ってよいでしょうか。

回答
単一物質として取り扱うことはできないと考えてよいでしょう。化審法では不純物とみなされるのは1% 未満の成分までです。また労働安全衛生法では不純物が新規化学物質の場合は有害性調査が必要になります。したがって、残り20% の成分について情報を取得し確認することがよいでしょう。
EUからの輸入ということですが、対象物質のREACH登録が完了しデータも揃っていれば不純物の情報もあるはずですので、まず最初に供給元に問い合わせることがよいでしょう。

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<第29回>
① 待っているお客様がいるのですぐに製造を開始したいのですが、製造販売しながら化学物質の登録審査を受けることはできるでしょうか。?
② 必要なデータを取得して登録を申請しようとしています。申請してから製造開始できるまでどのくらいの期間が必要でしょうか?
③ 少量のサンプルを研究・開発のために輸入しようとしていますが、当該化学物質を登録しなければならないのでしょうか?
④ 年間数トン程度の輸入に多額な安全性評価試験を実施することはビジネス上困難ですが、何らかの減免措置はないのでしょうか?
⑤ 化学物質を登録すれば、どのような用途にも使用できるのでしょうか?

 

化学物質の登録

化学物質管理規則が施行・運用されている国では、製造・輸入・販売しようとする化学物質をその国の政府のインベントリ(データベース)に収載されていなければならないのが通常です。このインベントリに収載される手続きを「登録」や「届出」と呼んでいます。
登録のためには、登録しようとする化学物質の物理化学的性状、人への健康有害性、環境影響などの法規に要求される安全性を評価しその結果を政府に提出、審査を経て申請が受理されて登録が完了すれば、製造・輸入・販売することができるようになることが通常です。
図表 にEU REACH規則における要求される試験項目を示します。
ただし安全性評価試験の結果、重大な危険有害性が判明するようなことがあれば、製造・輸入・販売・使用が禁止・制限されたり、使用にあたって特別な認可を受けなければならないこともあります。
現時点で日本・EU・USA・中国・韓国・台湾・フィリピン・オーストラリア・ニュージーランド・カナダではこのような化学物質管理規則が制定され施行・運用されています

 


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図表 EU REACH規則における要求試験項目

http://www.cerij.or.jp/service/10_risk_evaluation/international_regulations_01_file02.pdf

 


回答
① 通常、登録審査は製造輸入を開始する前に完了していることが要求されます。したがって、製造販売しながらの登録手続きはできません。

② 必要な期間として、安全性評価試験に要する期間とそのデータを当局に提出して審査を受け登録されるまでの期間の両方を勘案しなければなりません。
安全性評価試験の期間についてはさらに、試験用サンプルを合成・調製する期間、安全性評価試験そのものの期間に分けられます。もし海外での申請で、安全性評価試験も登録先の国で実施することになれば、サンプル送付などの時間も必要です。
安全性評価試験に必要な時間は、健康有害性や環境影響のための試験では厳密に決められています。このような試験では「明日からお願いします」などと依頼するようなことはできず、決められた手順によって計画書を作成し試験開始日から報告書の提出日までが決められてから試験開始となります。
場合によっては試験を実施する試験ラボの空き具合によって試験開始まで長く待つこともあるなど、事前に計算できないようなところがあることも考慮して、余裕をもってスケジュールすることがよいでしょう。
審査については、法規で決められた日数があり、通常はその日数以内で審査は完了します。
例えば米国のTSCAでは審査期間は90 日以内と決められています。
また日本の化審法では、申請の受け付けと審査の実施は、その回数と時期が年単位で計画される仕組みとなっており注意が必要です。
以下に、海外で登録する際のモデルケースとして、登録先国にサンプルを送付して安全性評価試験の実施と登録申請を想定してみましょう。
あくまでも想定ですが、全ての工程が順調に進行して35 週という期間になりました。安全性評価試験や審査の期間など実際に即してみればもっと短くなったり長くなったりということも、もちろんありますので、あくまでも参考としてご理解ください。


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図表 海外での安全性評価試験の実施と登録申請の推定日程
 

③ 多くの化学物質管理規則では研究開発のための化学物質は登録の適用免除を受けることができます。
ただし、免除を受けるにあたって、国によって申請が必要な場合もあれば、特に届出・申請などは不要な場合などもありますので、必要な手続きを確認する必要はあります。

④ 年間の製造輸入数量の程度によって安全性評価試験の要求の程度に差をつけて減免措置が取られています(例えば第29回 図表 REACH規則における要求試験項目 参照)。
新規化学物質の場合、製造輸入は少ない数量から次第に増加していくことが実際多いケースと思われます。数量に対応した安全性評価試験を随時追加して、その数量帯での要求データを段階的に満足させていくことで、ある程度無理のない法遵守ができると思われます。

⑤ 化学物質管理規則に基づく新規化学物質の登録は、製造・輸入の前提となるものです。
次の段階として、安全に使用できる用途や使用方法を考慮する必要があるでしょう。
高い安全性が求められたりするような用途の場合では、その用途に特化した別の法規が用意されている場合も多いと思われますので注意が必要です。
また、使用の際に使用方法とばく露を勘案したリスクアセスメントを実施し、使用する人の安全を守ることは、労働関連法規などにより義務化されていることもあり、もはや常識といってよいでしょう。

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